美術館10館における認知症の方とご家族対象の社会処方的アートプログラム《アートリップ》実施しました。(日本財団助成)
アートリップ〜対話型アート鑑賞〜

美術館10館における認知症の方とご家族対象の社会処方的アートプログラム《アートリップ》実施しました。(日本財団助成)


アンケートによる公募で募集した全国の美術館10館で認知症当事者の方とご家族を対象にしたアートリップと 一般の方対象の講演会「アートx美術館x認知症:アートリップの概要と効果」を実施しました。
各館の実施詳細と担当学芸員さんによる報告は以下のとおりです。

報告書ダウンロードはコチラ 

(1)時期:2023年11月15日~ 2024年 3月23日(土)
(2)実施した各美術館の実施日時と概要 (実施順に記載)
   
◎小樽芸術村 似鳥美術館(北海道) 担当学芸員:磯崎亜矢子
2023年11月15日(水)
 アートリップ 13:30~14:30  参加者20名(介護関係者)
 講演会    14:45~15:30  参加者20名 (一般の方、他館学芸員、福祉職他)

アートリップにおける鑑賞作品
 《カフェにて》 藤田嗣治 1949-1963年
 《若い娘の肖像》 小磯良平 1969年
 《薔薇》 林 武 制作年不詳

北海道新聞2023年11月25日に関連記事掲載

アートリップと講演会の波及効果
アインHD の方(11月に似鳥美術館でのアートリップと講演会に参加)から、福祉
事業者、医療関係者を対象にアートリップ体験と講演会を夜間に開催することを打診
され、アイン薬局小樽市立病院店と共催で、鑑賞体験と講演会を共催で、似鳥美術館
で開催。薬局の持つネットワークで、情報が届いて欲しい方々へ確実に届き、美術館
がアートリップのような取り組みの場として認識される機会となった。
2024年2月9日(金)鑑賞体験18:00~18:45 講演会19:00~20:15/参加者数28名
主催/アイン薬局小樽市立病院店 
共催/小樽芸術村 後援/小樽市・小樽市立病院
(認知症疾患医療センター)

◎アートリップで印象に残った作品 (担当学芸員:磯崎亜矢子)
藤田嗣治の「カフェにて」が印象に残っています。人がものを見るときに、その人の
経験や状況が反映されるのだということを改めて感じたからです。作中に描かれた女
性は誰に手紙を書いているのか意見を出し合う過程で、「お母さん」と応えた男性。
今は亡きお母さんに何か伝えたいことがあるのかもしれません。背景の店員の後ろ姿
に注目して「僧帽筋がしっかりしている」と発した男性。じっさい筋トレをしている
方でした。作品を媒介として、参加された方ひとりひとりと出会うことができるプロ
グラムだと思います。

◎三重県立美術館(三重県)担当学芸員:副館長兼学芸普及課長  道田美貴

2023年12月3日(日)
  アートリップ 10:30~11:30  参加者 7名
(内当事者3名、家族2名、支援者2名) 見学者 (四日市市の関係者3名、美術館関係者、自治体職員・福祉関連・教育委員会・文化関連、当事者家族、家族会メンバー)
  講演会   14:00~15:30 参加者数/51名

アートリップでの鑑賞作品
「アレクサンドリアの聖カタリナ」ムリーリョ、バルトロメ・エステバン/
油彩・カンヴァス/1645-50年頃/165.0×112.0cm
「女と鳥」ミロ、ジョアン/1968年/油彩・カンヴァス/100×65.6cm
「枝」シャガール、マルク/1956-62年/油彩・カンヴァス/150×120cm
※所蔵は全て三重県立美術館

◎アートリップで印象に残った作品 
文字のような黒く太い線が画面に広がり、その周辺に赤や青、黄色などの色が配され
たミロの「女と鳥」。人気の作品でありながら、「何が描いてあるかわからない」「抽
象画は難しい」と言われることの多い作品でもあります。鑑賞会で採り上げるには難
易度が高すぎるのでは、という我々の先入観はすぐに払拭されました。「おまつりみ
たいに音が聞こえる」「花火みたい」と、アートリップで盛り上がった気分そのまま
に、自由で楽しいものを連想してのコメントが印象にのこっています。そして丁寧に
言葉が交わされた後、ミロが関心を持った日本の書に話が及びました。その影響を作
品にみたときの参加者の驚きと感動の声も忘れられません。

講演会の夜にアーツアライブ代表理事の林あてにアートリップと講演会の両方に鈴鹿から参加されたMCIの高井勝男さんからメッセージを頂きやりとりをしました。
ご本人の許可を得て一部を共有させていただきます。

「私たち物忘れは自覚して忸怩たる思いの中、周りから頑張れと言われているがいかんとも仕方ない。
 金子みすゞは花と葉っぱや虫たちも「明るい方へ」向かっている。
 と歌っている。アートをコンダクターと対話で私達は気恥ずかしいながら素直に思いのままに発言してみんなが笑顔になり、明るい方に向かっていました。」

その一週間後、拙著「アートリップ入門:認知症のうつやイライラが改善する対話型鑑賞」を読まれて以下の感想を送ってきてくださいました。

「ページを開いてMCIの私でもわかりやすくホッとしました。 このようなプログラムを参院議員事務所がわが地区にありますので情報提供に行くつもりです。
 再びアーツアライブによる講演会が開催されたら三重県美術館道田氏から家族会に連絡のあることを楽しみにしています。 
 非薬物療法、アートの世界への誘いでの効果は当事者ははじかみながらの笑いは素晴らしい。林先生には更なるご活躍を期待しています。」

◎川崎市岡本太郎美術館(神奈川県)担当学芸員:普及企画係長・課長補佐 佐藤玲子

2023年12月13日(水) アートリップ 10:00~11:30
   12月17日(日) 講演会    14:00~15:30

アートリップでの鑑賞作品
「森の掟」岡本太郎/1950(昭和25)年
「マラソン」岡本太郎/1964(昭和39)年
「愛撫」岡本太郎/1964(昭和39)年
所蔵は全て川崎市岡本太郎美術館

◎アートリップで印象に残った作品
参加者の方の緊張がほぐれてきた3 点目の作品「愛撫」が印象深かったです。
横幅4mの大作で、どちらかというと抽象的で鑑賞が難しいと思っていた作品でした
が、作品を見る中で、自分に照らして生き方を振り返るような言葉がみられたり、
「何かが起こってしまった後」の場面だというコメントにもはっとしました。
椅子には座らず、大きい画面と向かい合って自然に言葉が出てくる様子が印象的でし
た。

アートリップ参加者アンケート
次回の参加希望は100%

◎栃木市立美術館(栃木県)  担当学芸員:山口加奈子

2024年2月7日(水)アートリップ10:30~11:30 参加者数/8名(当事者4名とご家族4名)
            講演会 13:30~14:30 参加者数/33名
アートリップでの鑑賞作品
「お手伝い」東京・銀座/木村伊兵衛/1952(昭和27)年/写真/クレヴィス所蔵
「道に落書きをする子どもたち」東京・浅草/田沼武能/1961(昭和36)年/写真/クレヴィス所蔵
「花」鈴木賢二/1961(昭和36)年頃/93.5×102.5木版/栃木市立美術館所蔵

◎アートリップで印象に残った作品
最も印象に残ったのが鈴木賢二の「花」。前の2 作品が写真ということもあり、ご自
身の幼少期の姿と重ね合わせながら発言されている方が多かったですが、この作品に
なると、絵をじっくり見ながら自分が思ったこと、他の方とは違った意見もあったり
するなど、対話が生まれていました。また、認知症当事者の方も絵を見た素直な感想
を述べられるなど、絵を通していろいろと想像しながら見ている様子がうかがえ、鑑
賞の時間の大切さを鑑みた気がします。

アートリップ参加者アンケート
次回の参加希望は100%

◎秋田県立近代美術館(秋田県)  担当学芸員: 学芸主事 北島珠水

2024年2月25日(日) アートリップ/13:30~14:30 参加者数/9名
              講演会/14:45~15:30 参加者数/23名

◉アートリップでの鑑賞作品
「残照」酒井三良/1923(大正12)年/絹本着色/ 136.0×112.0cm
「かまくら」勝平得之/1995(昭和30)年/木版 39.5×140.0cm
「地の華ー凍結した夜」佐々木裕久/1972(昭和47)年
紙本着色/120.0×165.0cm
※所蔵は全て秋田県立近代美術館

◎アートリップで印象に残った作品
佐々木裕久「地の華ー凍結した夜」が印象に残っています。
作品1、2 はご自身の思い出など具体的な内容の言葉が多かったのですが3 の作品に
関して、「人生のようだ」「前向きな感じがする」など自分の内面を表現する言葉が多
く聞かれたことがとても印象的でした。
普段の会話ではなかなか発することが少ない表現であったり、考えたり、感じたりす
る機会があまりないことのように思いました。
作品の選び方、鑑賞する順番や流れ、言葉の拾い方、つなげ方がとても大切であるこ
とを感じました。

◎熊本市現代美術館(熊本県) 担当学芸員: 岩崎美千子

2024年3月2日(土)
アートリップ/10:30~11:30 参加者数/5名、うち見学者3名
   講演会/13:30~15:00 参加者数/17名

◎アートリップでの鑑賞作品
「夏みかん」石田澄男/ 2007(平成19)年/油彩・キャンヴァス/ 45.5×53.0cm
「楽しい生活」淵田安子/ 2000(平成12)年/油彩・パネル・キャンヴァス/
130.3×162.1cm
「花」坂本善三/ 1933(平成5)年/油彩・キャンヴァス/ 91.0×72.8cm
※所蔵は全て熊本市現代美術館

◎アートリップで印象に残った作品
「花」坂本善三/1933(平成5)年

タイトルと併せて見ているとそれほど違和感なく「花」として認識するのですが、
アートリップで絵だけで会話をしていくと、「人の顔」や「パフェ」という見方が出
て驚きました。同僚も同じ感想を抱いたようです。それまであまり思っていませんで
したが、観者の想像が膨らみやすい作品であることに気づかされた次第です。アート
リップでは3 つ目の作品だったせいか、認知症当事者の方は疲れ気味になっていま
したが、赤や黄色など目に付く色も多く、アートリップや高齢者との鑑賞会に向いて
いる作品なのかなと思いました。

熊本日日新聞 2024(令和6)年3月27日に記事掲載
アートリップ参加者アンケートなど

◎佐倉市立美術館(千葉県)   担当学芸員: 西川可奈子

2024年3月9日(土)
アートリップ 10:00~11:00 参加者数/7名(当事者3名とご家族4名)
   講演会 14:00~15:30 参加者数/42名

アートリップでの鑑賞作品
「房総の晴」櫻井慶治/2004(平成16)年
「桜華雲- 神楽による」佐藤事/1978(昭和53)年
「揺れる」小川イチ/1988(昭和63)年
※所蔵は全て佐倉市立美術館

◎アートリップで印象に残った作品
佐藤事《桜華雲-神楽に依る》1978(昭和53)年
アートリップ当日、当館で2 作目に鑑賞した作品。目を凝らすと画面いっぱいに描
かれた花の中に数匹のカエルを見つけることができる。
林氏から「カエルは何匹いますか」「この花はなんていう種類の花でしょうか」「みな
さん、カエルにまつわる思い出ってありますか」と問いかけられると、鑑賞者から活
発にコメントが飛び出した。特に鑑賞者が幼少期に触れあったカエルとの思い出を、
対話を通して言語化していく様子が印象的であった。

メディア取材: 日本経済新聞 4月4日、5日 文化欄「アートとケア㊤㊦」に掲載

◎丹波市立植野記念美術館(兵庫県)     担当学芸員: 永山宗史

2024年3月15日(金) アートリップ/10:30~11:30 
              講演会/13:00~14:30 参加者数/14名
アートリップでの鑑賞作品
「松茸」山本茂斗萠/制作年不詳/紙本着色/36.0×31.2cm/三友楼所蔵
「鷹図」常岡文亀/制作年不詳/絹本着色/50.5×124.0cm/丹波市立植野記念美術
館所蔵
「春の海 一の谷から淡路を望む」川端謹次/1972(昭和47)年
油彩・カンヴァス/111.5×145.0cm /三友楼所蔵

◎アートリップで印象に残った作品
丹波地域の名産品である松茸が主題の山本茂斗萠《松茸》でのアートリップが印象に
残っています。林様には「地域の方の生活に結び付いた身近なもの、食欲を刺激する
感覚にうったえかけるもの」として、最初に鑑賞する作品として選んでいただきまし
た。現在の丹波地域では、松茸よりも黒豆、丹波栗、大納言小豆が農作物の「丹波三
宝」として有名ですが、かつて丹波は松茸の産地として知られていました。丹波市在
住の70~80代の方は若いころに近所の山でたくさんの松茸を収穫して食べた経験が
ある方が多く、松茸を見て懐かしそうに思い出を話されていました。参加者の皆様に
とって松茸狩りや食事は楽しい思い出だったそうで、初対面のときの緊張感が一気に
とけて、なごやかな雰囲気でお話しされていた様子が印象的でした。

メディア取材/サンテレビ、朝日新聞社、毎日新聞社、神戸新聞
サンテレビにてアートリップが放映(同日夕方のニュース)
アー

◎豊橋市美術博物館(愛知県) 担当学芸員: 細田樹里

2024年3月18日(月)
アートリップ/10:30~11:30 参加者数/6名(当事者4名)見学者(ご家族4名、介
護施設職員2名、地域包括支援センター職員1名、美術館関係者3名)
講演会/14:00~15:00 参加者数/30名

アートリップでの鑑賞作品
「さらば!」アルフレッド・ギユ/1892 年/油彩・カンヴァス/170×245cm
「逆風」ジャン= ジュリアン・ルモルダン/1905 年頃/
油彩・カンヴァス/97×130cm
「ビグダンの祭り」モーリス・レオナール/20 世紀/油彩・カンヴァス/
130.3×162cm
※所蔵は全てカンペール美術館(フランス)所蔵

◎アートリップで印象に残った作品
一番印象に残ったのは、ジャン= ジュリアン・ルモルダンの「逆風」で、一見する
と性別がわからない人物が複数名、海辺を歩いている作品。
70代の当事者男性が「風の強い大変な状況を描いているので、男性のような勇まし
い顔をしている」という趣旨のコメントをされた。
この方は3点とも絵をよく見て的確なコメントをされた。聞いていて楽しく、新たな
気づきを得た。アートリップ後の振り返りでも3 点の持つ性質の違いを指摘され、
一同で拍手をした。林先生がこの3 点を選んだ意図を的確に理解されていた。それ
を聞くご家族の嬉しそうな表情も印象的であった。

◎倉吉博物館(鳥取県)  担当学芸員: 伊東泉美

2024年3月23日(土)
アートリップ/10:00~12:00 参加者数/10名(ご家族4名、介護施設職員2名、
地域包括支援センター職員1名、美術館関係者3名)
講演会/13:30~15:00 参加者数/30名

アートリップでの鑑賞作品
「紅椿」奥村土牛/1955(昭和30)年頃 /紙本着色/58.0×73.0cm
「椿林」橋本 花/制作年不詳 /油彩・カンヴァス/71.0×90.0cm
「春」松村公嗣/1986(昭和61)年/紙本着色/73.0×53.4cm
「初霞」牧 進/1981(昭和56)年/紙本着色/172.5×169.5cm
※所蔵は全て あいおいニッセイ同和損害保険株式会社

◎アートリップで印象に残った作品
一番印象に残っている作品は「椿林」橋本花。
精緻に描いた作品などが注目される展示室で注目されることの少ないこの作品のス
ケール感や色彩、生き生きとした描写をじっくりと鑑賞することができたから。展示
室にいた展示監視員も、「作品に対する印象ががらりと変わった」と話していました。

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